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東京地方裁判所 昭和41年(特わ)469号 判決

本店の所在地

東京都渋谷区代々木一丁目三〇番地の一二

法人の名称

東邦開発株式会社改めコーポランド建設株式会社

代表者の氏名

右代表者代表取締役 井上博司

本籍

東京都大田区雪ケ谷町六三四

住居

東京都大田区南雪ケ谷町二丁目七番八号

会社役員

謝天得改め 井上博司

大正一一年九月一二日生

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官山同譲次・弁護人萩原菊次、同浅見敏夫出席の上審理して次のとおり判決する。

主文

被告会社を罰金一、一〇〇万円に被告人井上を懲役六月に各処する。

被告人井上に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用(証人及び鑑定人堀未蔵に支給した分)の六分の一を被告会社及び被告人井上の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社(昭和四〇年八月一九日以前の商号は東邦開発株式会社)は、東京都渋谷区代々木一丁目三〇番地の一二(同年八月二五日以前は同都港区芝三田三丁目二番地)に本店を置き、土地及び建売住宅の分譲等を営業目的とする資本金五、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人井上は被告会社の代表取締役として業務全般を総括していたものであるが、被告人井上は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上に関し表、裏の二重契約をなす等して簿外の売上をなし、あるいは架空仕入を計上する等して簿外預金を蓄積する等の方法により所得を秘匿し

第一、昭和三七年七月一日より昭和三八年六月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が四一、四七四、六七一円であり、これに対する法人税額が一五、五〇一、一三〇円であつたのにかかわらず、昭和三八年八月三一日東京都港区西新橋三丁目二五番所在の所轄芝税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五、一五三、六八六円であれこれに対する法人税額が一、七〇四、五七〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額一三、七九六、五六〇円を免れ

第二、昭和三八年七月一日より昭和三九年六月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が八六、七四一、四九九円であり、これに対する法人税額が三二、五一二、七六〇円であつたのにかかわらず、昭和三九年八月三一日前記芝税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九、四五九、〇五九円であり、これに対する法人税額が三、一五三、九三〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額二九、三五八、八三〇円を免れ

たものである。(所得金額の確定内容は別紙一、二の修正貸借対照表の、税額計算は同三の税額計算書の各記載のとおりである。)

(証拠の標目)

一、被告人の当公判延における供述

一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一四通及び検察官に対する供述調書三通

一、被告会社の閉鎖登記簿謄本及び登記簿謄本

一、証人川部君平、大木弘三、服部国光、丹野徳雄、堀末蔵の当公判廷における各供述

一、川部君平作成名義の上申書三通(40・5・14付、40・5・320付、40・8・17付)

一、原田恒二の検察官に対する供述調書

一、検証調書

一、鑑定人堀未蔵の不動産鑑定評価書

一、大蔵事務官菅野進作成(以下同様)の銀行調査書類

一、売上調査書類

一、棚卸土地建物調査書類

一、土地建物分譲状況調査書類

一、仕入仲介手数料現場別明細表

一、仕入土地調査書類

一、個人取引調査書類

一、社長貸借調査書類

一、社長借入金計算書

一、渋谷税務署長の青色申告取消通知書写

一、押収してある以下の証拠物件(いずれも当庁昭和四二年押第一一二三号、頭の数字はその符号番号)

1  契約書及売上原簿綴六綴

2ないし6 契約書等各一袋

7 売上原簿三綴

8 地代ノート一冊

11 39・6期会計伝票九綴

13 37・6期総勘定元帳一綴

14 38・6期総勘定元帳一綴

15 39・6期現金出納帳二冊

16 仕入帳一冊

17 現場別売上帳二綴

18 39・6期売上帳一綴

19 現場別売上帳三冊

20 手形受払帳二冊

21 社長個人所得税関係綴一綴

22 売上メモ一袋

23 売上メモ他経費メモ在中袋一袋

24 領収証一袋

26 浦和関係契約書等一袋

27ないし35 売買契約書外各一綴又は各一袋(番号順に大宮、与野、秋津、蕨、大倉山、鶴瀬、新河岸宮田町、川越、新河岸)

36 農地法第五条許可申請書一綴

37 河川境界立会通知外一綴

38 売渡承諾書外一綴

39 決算資料綴一綴

40ないし53 土地売買契約書等各一袋

54 借入金メモ一袋

55 権利証一袋

56 転用事実確認願一袋

57ないし60 土地売買契約書各一袋

61 仮登記済権利証一袋

62 39・6期元帳一綴

63 借入証控一袋

64 利息領収証一袋

65 土地売買契約書一袋

66 登記済権利証一袋

67 土地売買契約書等一袋

68 領収通帳二冊

72 借用証等一袋

77 決議書綴三綴

78 決議書綴一綴

80 現場売上一覧表一綴

81 通知預金通帳一冊

82 総勘定元帳(第一〇期)一冊

(争点についての判断)

検察官主帳の勘定科目中の修正分(弁護人主張額の一部認容分)に関する科目、金額及び内容は、別紙四、五のほ脱内容の修正表、同六の宅地造成費明細表、同七の昭和三七年六月三〇日の修正貸借対照表(過年度金額、未納事業税額の算出に関するもの。)、同八の昭和三六年六月三〇日現在社長借入金勘定明細書の記載のとおりである。

右に関する補促説明及びその余の当事者の主張に対する判断を以下に示す。

(一)  土地棚卸〔期中造成費関係〕について

土地(造成地)の期中造成費に関する弁護人の主張額(別表六の明細表中弁護人主張欄)は、その具体的な裏付けはなく、採用できない。しかしながら、検察官の本位的訴因の主張額(右明細表中の調査欄)中一部の造成地については、棚卸高(期中造成費の分)が過少に把握されていると認められるので、次のとおり確定した。期中造成費は、確定原価計算によるべきである(後述するように本件は見積り原価計算によるべき事案ではない。)が、被告会社の会計記帳ないし記録の保存状態か甚しく不良で期中造成費を直接認定するに足る資料はない。被告会社が通常の造成業者であることを勘案し、各土地につき造成当時の状況に基づき、期中造成費を鑑定によつて算出し、これを推計の根拠とした(別紙六の明細表中備考欄の鑑定とある部分はその趣旨である。)。他に特段の立証のない限り、右鑑定結果は関係証人の供述、当裁判所の検証結果等により、合理的な推計の資料とすべきである。但し、池袋、大宮の各現場は調査額に費用、支出の根拠が認められるので、鑑定価格を採用しない。

(二)  社長借入金〔過年度(36・6・30)通知預金(別紙八の明細書一特別仮受金算出明細の通知預金二六、七〇〇、〇〇〇円)関係〕について

1  弁護人は、「被告人個人の井上博司名義の日本勧業銀行芝支店通知預金五、五〇〇、〇〇〇円が昭和三六年九月二二日解約後会社の預金である三菱銀行池上支店の大友忠、野島和雄、川西良一各名義の口座に振込まれた。よつて昭和三六年六月三〇日現在として同額の社長借入金を認めると共に、同額の通知預金の加算を認めるべきである。」旨主張する。

2  関係証拠によると右預金の推移は次のとおりであると認められる。

〈省略〉

以上の推移によつて明らかなごとく、井上の個人預金が会社の大友、野島、川西の口座に振込まれたとしても(但し押八一号によると野島和雄名義のものは〃借入返陳熾〃の記載があり、川西良一名義のものは、〃AT丸の内より〃の記載があつて、果して井上の個人預金からの振替わりかどうかさえ疑わしいが)、それは昭和三六年六月三〇日以後のことであり、かつ被告会社の当該事業年度内に解約されたので当年度の預金の増減金額には影響しない。弁護人の右主張は失当である。

(三)  社長借入金〔被告人個人と被告会社との所得率計算(別紙八の明細書五項関係)〕について

1  昭和三六年六月三〇日現在の被告会社及び被告人の個人の事業による総合所得は、右明細書四項記載のとおり一四〇、二六八、七八七円と確定すべきであるが、この中個人所得がいかなる割合で混入しているかにつき、検察官は、会社と個人との所得率(売上に対する所得金額の割合)を用いて推計すべし、と主張し、その所得率につきいわゆる同業者平均所得率を用いている。すなわち、個人については、雪ケ谷税務署管内における中田工務店朝倉義雄を同業者として選定し、同人の所得率七・七%を用いて被告人個人の所得率にあてはめ、会社については、数社を同業種法人として、その総平均所得率一三・八%を適用すべきもの、とする(前掲社長借入金計算書)。

2  しかしながら右の個人事業に関する所得率は、僅か一店舗に関するものにすぎず、又その店舗は、白色申告者であることが認められるから、かような個人所得率は、標準値としてはとうてい合理的なものとはいえず、推計の根基となし得ないのである。被告人は、個人としても被告会社としても、およそ同様の方法で事業を継続していたというのであり、他に特段の立証のない本件においては、個人と会社とを同率とみ、その所得率は、右明細書五記載のとおり一四・八七%とする。

(四)  その他買掛金〔及び関連する土地棚卸、社長借入金関係〕について

1  弁護人の主張は次のとおりである。

「造成団地の分譲による原価計算は、各造成団地に投入された土地仕入代金、造成工事費、現場諸経費の総費用によつて計算されるものであるが、造成工事費については、工事が長期間にわたり施行され、工事完成前の仕掛工事中に分譲を開始しているのが分譲業者の通例である。一つの団地を一つの商品として原価計算する建前上それに投入する造成工事費については、その団地の造成完了までに要すべき総造成工事費を適切に見積り計上する必要が生ずるか、このような場合、権利確定主義による狭義の発生主義を採用するならば、事業年度終了時において工事契約を締結していないもの又は発注していないもの等は、権利義務が成立していないので原価に計上されない結果となり当該事業年度の原価が安くなつて会計期間に対する費用収益の対応は適正とならなくなる。従つて造成団地の分譲による原価計算については、工事原価は工事の見積額を含ましめるべきであり、見積額はその事業終了時の現況により、その工事に見積られる工事原価とすべき(国税庁法人税基本通達二-二-二)である。

被告会社の造成団地分譲における原価計算においても、分譲を開始した事業年度末の現況により造成工事費は工事完成までに投入を予定される見積額を算出し、工事未完了部分は買掛金として処理すべきである。

各期別の期末買掛金の額は、次のとおり(詳細は第一五回公判で弁護人提出の追加陳述要旨書記載)である。

事業年度 査察官調査資料によるもの 社長借入金によるもの 計(期末買掛金)

三六、六、三〇 一五、〇四一、〇二五円 一八、八九四、九二〇円 三三、九三五、九四五円

三七、六、三〇 一〇、四七二、九〇二円 一二、六五五、五八一円 二三、一二八、四八三円

三八、六、三〇 三四、七六八、二二七円 九、七七五、〇九一円 四四、五四三、三一八円

三九、六、三〇 三九、八四九、六二九円 三、八八四、三三二円 四三、七三三、九六一円

社長借入による造成工事費はいわゆる簿外で投入された造成工事費であり、これについてもある事業年度終了時についてみるならば次期以降に投入されるものは当然負債勘定(買掛金)として計上すべきものとなる。然してこの関係の資金の流れは、社長のポケツトマネーによつて賄われ、該土地の売却によつて得られる代金のうちより借入金は社長に回収され、更に必要に応じ再び投入される形式を反覆してきたものである。

期間損益は財産増減法で計算している建前上右社長借入金(貸方)とこれに対応する土地棚卸(借方)は同金額が借方、貸方に計上されるので、結果的には増減がないものである。

2  当裁判所の判断は次のとおりである。

造成土地の売上原価、造成工事原価の計算の基礎となるべき費用は、権利義務の確定したものに限られることが原則とされるが、分譲業者において、事業年度内に造成工事の完了を待たずに分譲を開始したような場合には、確定費用に基づく原価計算を行うに止まらず、企業会計原則における費用収益対応の原則を根拠として、期間に適正に配分された見積り費用の額をも原価計算に算入すること(見積り原価)ができると解せられ、弁護人の所論は、この限りにおいて一般論として肯定される。

しかしながら、見積原価計算が許容されるためには少くとも(1)具体的にその金額を見積ること(2)それを採用した以上継続的にその計算方法を用いること、が健全な会計処理上必要であることはいうまでもない。本件においてこれをみるに、被告会社は、当時一時的にも見積原価計算方式を採つた事実はなく、又見積り費用を証拠によつて確定することも不可能であるのみならず、被告会社の当時の造成、分譲の状況をみると、多数の団地ごとに分譲-販売を繰り返し、その回転も比較的早かつたところと認められるから、本件の所得計算にあたつては、見積原価計算方法を採り入れなくても、売上(収益)と原価(費用)の対比が甚しく歪むものとは考えられない。

本件において弁護人所論のような見積原価は認定できないから、これを支えとする弁護人の関連主張はすべて失当である。

(法令の適用)

一、被告会社につき、昭和四〇年法律第三四号附則一九条により改正前の法人税法四八条、五一条、刑法四五条前段、四八条二項

一、被告人井上につき、昭和四〇年法律第三四号附則一九条により、改正前の法人税法四八条(懲役刑選択)、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、二五条一項

一、訴訟費用の負担につき、刑事訴訟法一八一条一項本文一八二条。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小島建彦)

別紙一 修正貸借対照表

東邦開発建設株式会社

昭和38年6月30日

〈省略〉

〈省略〉

別紙二 修正貸借対照表

東邦開発建設株式会社

昭和39年6月30日

〈省略〉

〈省略〉

別紙三 税額計算書

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

別紙四

ほ脱所得の内容の修正表

昭和38年6月30日現在

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙五

ほ脱所得の内容の修正表

昭和39年6月30日現在

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙六

宅地造成費明細表

昭和36年6月30日現在

〈省略〉

〈省略〉

昭和37年6月30日現在

〈省略〉

〈省略〉

昭和38年6月30日現在

〈省略〉

〈省略〉

昭和39年6月30日現在

〈省略〉

〈省略〉

別紙七 修正貸借対照表

東邦開発建設株式会社

昭和37年6月30日

〈省略〉

〈省略〉

別紙八

昭和36年6月30日現在社長借入金勘定明細書

〈省略〉

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